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大学プログラム

北國健康生きがい支援事業
金沢医科大学プログラム

第1回フォーラム『がんの集学的治療』
 開催日:2006/09/16(土) 会場:北國新聞会館

がん治療は患者本位の「チーム医療」の時代へ

 いまや日本人の死亡原因の一位となっている「がん」。実に日本人の3人に1人ががんで亡くなる時代を迎え、金沢医科大学と北國新聞社は9月16日、北國新聞会館で、北國健康生きがい支援事業・金沢医科大学プログラム「がんの集学的治療」と題したフォーラムを開催しました。新たな国民病をどう克服していくのか、最新の「集学的がん治療」の現場や、がん予防などに関する講演とパネルディスカッションが繰り広げられました。

【共催】 金沢医科大学
【後援】 石川県医師会、金沢市医師会、石川県歯科医師会、石川県看護協会、石川県薬剤師会、石川県栄養士会

基調講演【1】

各専門家の技術と知恵を結集

「垣根を越えたがん医療」
元雄 良治さん 金沢医科大学腫瘍治療学教授・同大学病院集学的がん治療センター長

■講師プロフィール
元雄 良治さん
小松市出身、東京医科歯科大学医学部卒業。金沢大学医学部に入局し、平成15年、金沢大学がん研究所腫瘍制御部門腫瘍内科研究分野助教授、17年4月から金沢医科大学腫瘍治療学部門教授。専門は臨床腫瘍学、消化器内科学、がん細胞生物学、漢方医学

集学的がん治療とは

 皆さんは、がんと聞くとどんな治療法を思い浮かべますか。おそらく、外科手術という方法を、真っ先に思いつくのではないでしょうか。この外科手術のほかに、代表的なものとして放射線照射、抗がん剤投与があり、「三大療法」と呼ばれています。
 早期に発見された小さながんには、手術が最も有効で、最も優れた治療法です。しかし、がんによっては手術より放射線や抗がん剤が有効な場合もあります。医師は、がんの進行度に応じて適切な治療法を選び、時には三大療法を組み合わせる必要があります。
 ところが、従来の病院組織は縦割り意識が強く、「手術は外科」「抗がん剤投与は内科」といった診療科間の壁が存在しました。これでは、患者さんが最良の治療を受けるのが難しいと言わざるを得ません。
 この反省に立つのが「集学的がん治療」です。外科、内科、放射線科、病理など各診療科の医師をはじめ、看護師、薬剤師、栄養士、臨床心理士ら、各分野のエキスパートが知恵と技術を結集し、患者さんにとって最良の治療にあたるというものです。
 例えば、乳がんの治療では、放射線照射でがんをある程度小さくしてから、手術でがんを取り除き、術後、放射線や抗がん剤で再発を防ぐといったことが容易になります。金沢医科大学でも昨年十月に「集学的がん治療センター」を開設し、多くのスタッフが患者さん本位で治療に臨む「チーム医療」を推進しています。

外来通院が主流に

移動の手間なし、テレビ見ながら

 集学的がん治療の基本は「外来化学療法」、すなわち通院しながら抗がん剤を投与する治療が中心です。「外来通院だけでがんが治るのか」と驚かれるかもしれませんが、アメリカではがん患者の九〇%が外来化学療法を受け、がん治療の主流になっています。
 この背景には、副作用を抑え、薬効の優れた抗がん剤が相次いで登場したことがあります。これまでの抗がん剤治療では、副作用が強いため長期間の入院が必要でした。しかし、現在は副作用を抑える薬まで開発され、外来でも安全に抗がん剤治療を受けることができるのです。
 私たちのセンターでは、受け付けから採血、診察、薬剤の点滴、休息まで、すべてをセンター内で行えるので、患者さんは病院内をあちこち移動する手間がいりません。リクライニングチェアに腰掛け、リラックスした姿勢でテレビや音楽を楽しみながら抗がん剤の点滴を受け、自宅へ帰られます。
 この外来化学療法の一番のメリットは、患者さんが自分のライフスタイルを維持しながら治療できることです。慣れ親しんだ家で家族と暮らし、仕事も続けながら、治療を受けられます。患者さんの精神的なストレスを減らす上でも、とても大きな効果があります

外科から内科中心の治療へ

 従来、日本のがん医療の現場は手術中心で、化学療法や緩和ケアまで外科が担当し、外科医に大きな負担がかかっていました。さらに、複雑化する抗がん剤に対応した治療メニューの確立にも時間が取られ、患者さんとその家族に対する十分な心のケアまでなかなか手が回らなかったというのが実情です。
 近年、腫瘍内科医がクローズアップされるのは、以上のような問題を解決するためです。この腫瘍内科医は、抗がん剤治療を専門的に学んだ内科系の医師のことで、正式には「がん薬物療法専門医」といいます。
 腫瘍内科医は、がん治療における「チーム医療」のリーダーとも言うべき存在であり、患者さんの症状や体調はもとより、精神面や生活習慣まで把握しながら、他の診療科と連携して患者さんにとってベストの治療法を導き出します。同時に、がん治療に対する患者さんの不安や疑問や相談に乗ることも重要な仕事です。当センターでは、他の病院での診断に関する相談にも腫瘍内科医が「セカンドオピニオン」の立場で対応しています。
 アメリカでは、既に腫瘍内科医はがん治療の中心となっています。日本でも今年度、日本臨床腫瘍学界が認定する腫瘍内科医四十七名が初めて誕生し、今後のがん治療で大きな役割を果たしていくことが期待されています。

生活習慣を見直し予防を

 まだ、がんを不治の病と思われる方が多くいますが、決してそうではありません。もし、皆さんががんと診断されても、あせらずに正しい情報を集めてください。がんにはいろいろな治療法があり、どの治療法が自分に合っているのか、自分はどうしたいのかをじっくりと考え、担当の医師に希望を伝えることをお勧めします。
集学的がん治療の仕組み
 集学的がん治療は、患者さんにとって最良の治療を行うものであり、患者さんと医療スタッフの信頼関係が何よりも大切です。患者さんも正しい知識を身に付け、スタッフととことん意見交換をする中から、信頼関係は生まれます。
 もちろん、がんを予防できればそれに勝るものはありません。アメリカの研究機関が発表した「がん予防十五カ条」では、「バランスの取れた食事をする」「正常な体重を維持する」「運動を継続する」「野菜や果物を多く摂る」「お酒は飲まない」「タバコは吸わない」など、ごく当たり前のことが書かれています。
 逆に言えば、こうしたことのできない人が多いということです。毎日の生活習慣を見直すだけで、がんになる確率は三〇〜四〇%も減ると言われており、皆さんもぜひ実践していただきたいと思います。




【第2部】パネルディスカッション

早期発見なら怖くない 年に一度は検診を

パネリスト
元雄 良治さん
パネリスト
小坂 健夫さん
パネリスト
利波 久雄さん
パネリスト
相原  操さん
パネリスト
中川 明彦さん
コーディネーター
堀 喜代治さん

ダメージを抑える手術が発達 ▼小坂
最新の照射法で生活機能を守る ▼利波
ストレス和らげ社会復帰を支援 ▼相原
予防に大切な食生活改善と運動 ▼中川


「切らない手術」が普及

それでは、さまざまな医療分野に従事する専門家の皆さんから意見をうかがいます。まず、最近の外科手術の進歩には目覚しいものがありますね。
小坂がんの部位にもよりますが、早期がんでは手術が最も安全、確実な治療法と言えます。最近では、ソフトバンクホークスの王監督も受けた、切開せずに手術する「内視鏡手術」という方法が普及してきています。胃がんの場合、通常の外科手術だと五〜七センチの傷が残り、患者さんのダメージも小さくありません。これが内視鏡手術だと、がんだけを切り取ることができるので、患者さんの回復が早く、入院期間も短くて済むメリットがあります。
内視鏡手術のデメリットは何でしょうか。
小坂やはり技術的に難しいことです。それに歴史も浅く、安全性の科学的根拠がまだ確立していないので、医師と十分相談の上で臨むことを勧めます。
胃が切除されることで、食事面の不都合もあるでしょうね。
小坂胃がんの術後は、食べたものが逆流したり吐き気を催すなどの後遺症が出ます。このため、最近では切除する部分をなるべく小さくする縮小手術も行われるようになっています。
中川食事は、患者さんの症状や体調に合わせて段階的に進めていきます。食べさせるのでなく、食べられるものを提供するということを心がけています。医師や放射線技師、理学療法士と一緒に、レントゲンで飲み込みの状態を確認しながら食事の内容を検討するなど、細心の注意を払っています。

手術に勝る放射線療法

進行したがんや再発の場合、手術だけでは完治が難しいのですか。
小坂進行した場合は、術前に放射線を当ててがんを小さくしたり、抗がん剤で再発を抑えたりといった集学的な治療が必要になります。
利波放射線治療はがん細胞を殺す一方、その周りの正常な細胞にもダメージを与えていました。しかし、コンピュータの進歩によって、がんだけを狙って重点的に照射できるようになり、手術に勝る効果を得られることがあります。
放射線治療が有効ながんにはどんなものがありますか。
利波例えば、前立腺がんです。以前は、手術とホルモン療法が治療の柱でしたが、尿もれや勃起障害などを起こすというリスクがありました。いまは内部照射法といって、放射線を発する五ミリ大のカプセルを患部に直接、何十個も埋め込み、徐々にがんを殺すという技術が開発されたことで、このリスクは格段に小さくなりまし
た。
元雄血管にカテーテルという細い管を通して、腫瘍に直接、薬剤を注入する化学療法を組み合わせれば一層、効果的です。
さまざまな治療法を組み合わせることで、治療の効果を高めることができるわけですね。放射線治療のメリット、デメリットはどうですか。
利波最大のメリットは、人として重要な生活機能を残しながら治療ができることです。喉頭がんなど、のどにがんができた場合、手術で口やのどに障害が残ると、日常生活に支障をきたします。放射線治療なら、機能を奪わずに治療ができます。デメリットは、腺がんなど、がんの種類によっては効きにくいものがあることです。

心のケアも重要な仕事

今日は女性の参加者も多いのですが、乳がんの治療について教えてください。
小坂以前は、乳がんというと、乳房をすべて切除する方法しかありませんでした。最近は、乳房を温存し、がんとその周辺だけを切除する方法が主流になってきてい
ます。
切除と温存の分かれ道は、どのあたりなのでしょうか。
小坂温存するには、まず、がんの大きさが三センチ以下であること。それから転移がなく、本人が温存を希望していること。そして、放射線治療が受けられる環境にあ
ることですね。
元雄術前に放射線照射や化学療法を行うことでがんを小さくし、温存が可能になる場合もあります。
化学療法を受けると、脱毛という副作用もありますね。女性にはつらいことですよね。
相原髪が抜ける患者さんには、カツラとわからないようなウィッグを用意したり、乳房を切除した患者さんには、シリコン入りのブラジャーを紹介したりと、少しでも社会復帰の支えになれるよう努力しています。
乳房を切除した場合、女性が受ける心の傷は相当なものでしょうね。
相原自分の体の一部を失うつらい現実と向き合いながら、治療も続けていくというストレスは、大変なものです。私たちは、患者さんがそういう状態にあることを常に頭において接しなければなりません。そして、身近にいる人たちが、温かい目で見守ることがとても大切です。
元雄本学の「集学的がん治療センター」では、患者さんの心と体、そして家庭や職場などの社会的背景を含むすべてを把握して診療する「全人的がん治療」に取り組んでいます。医療技術を提供するだけでなく、患者さん心のケアを重視していることが、従来のチーム医療とは一線を画す点かもしれません。

全身をほんの数分で検査

食生活でここに注意したら、がんが予防できるというものはありますか。
中川テレビで「この食材ががんの予防に効く」などの番組も見かけますが、残念ながら「これさえ食べていれば安心」という食材はありません。野菜や果物を多く摂る、油ものを控える、食物繊維を十分に摂る、適度な運動をするなど、基本的なことを地道に実践することが大切ですね。
では、がんを防ぐにはどうしたらよいのでしょうか。
小坂年に一度はがん検診を受けること。早期に発見すれば、それだけ治る確率も高くなるからです。検診は、毎年来る人と、全く来ない人に分かれる傾向があります。全く来ない人を減らすということも、私たちの仕事だと思っています。
利波最近は放射線による画像診断技術が非常に進歩し、一センチ以下のがんでも簡単に発見することができます。レントゲンやCTといった従来の画像診断のほか、マルチスライスCTやPET(ペット)など全身をほんの数分で検査できる技術も生まれました。患者さんの負担は、昔とは比べ物にならないくらい軽くなっているので、気楽に受けていただければと思います。
相原「自分は大丈夫」という思い込みを捨てるべきですね。がんになる可能性は、だれにでもあります。体調がすぐれず少しでも不安を感じたら、すぐに受診してほしいですね。
元雄当然ながらたばこはよくありませんので、禁煙を勧めます。もしがんになっても、治らないと決まったわけではありません。自分のがんをよく理解し、医療スタッフと信頼関係を築き、会話を重ねることで、自分にとって最良の治療が見えてくるはずです。
医療の進歩には驚かされるばかりです。患者となる私たち自身も、正しい知識を身につけることが、がんの予防や最良の治療を受けることにつながるわけですね。今日はありがとうございました。
(文中・敬称略)



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